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言いたいことは全部ポイズン

年度末に羊とバクが苺を喰ってひとり言 - 3月の題詠短歌

 

3月の題詠短歌10首および投稿作品ご紹介です - はてな題詠「短歌の目」

 

詠みます。

 

☆☆

1.雛

「ヒナです。」と隣に座ったEカップ 口を開いて餌を待ってる

 

2.苺

ねえ甘い?それともすっぱい?教えてよ キミが溺れるイチゴの果汁

 

3.夕

縁台でビール片手に夕涼み 火花消えても夏よ終わるな

 

4.ひとり言

「5分煮る。」独りコトコトひとり言 心のアクを取り去る儀式

 

5.揺らぎ

肌重ね唇重ね瞳(め)は閉じる 揺らぎ隠して秘密守って

 

6.羊

「大丈夫、ほんとに何もしないから。」ひつじくんはそう言いました。

 

7.線

どこまでも続く白線踏みしめて「落ちたら負けよ。」 知るかそんなん

 

8.バク

バクに夢喰われる前に目が覚めた 白でも黒でもないのさ人生

 

9.年度末

「さようなら。年度末だし別れましょ。」 彼女の決算 僕の損失

 

10.信号

信号があたしの中で騒いでる 赤だぞ止まれ 赤だぞ止まれ

☆☆

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短歌たのすぃぃぃぃぃぃぃ!!ぜひ続いて欲しいイベント!!

好きな箇所引用スターくれたら嬉しいよ。

 

雪どけ - 第5回短編小説の集い -

7時。健司のいつもの起床時間だ。
もう何年も前から目覚まし時計がなくてもほとんどぴったりこの時間に起きるようになっている。
腰に負担がかからないよう、横を向いて手をつきながらゆっくりと起き上がると、隣で寝ている雪子を起こさぬようそろりと布団から出た。

台所で一人分のコーヒーを淹れ、椅子に座ってテレビを見る。朝食は食べない。
以前は雪子が健司よりも早く起きて焼魚やら味噌汁やらを作ってくれていたのでありがたく頂いていたが、最近の雪子は午前中いっぱい眠りこけているので、健司もわざわざ一人分の朝食を用意するのが面倒くさく、朝はコーヒーだけという生活が続いている。

テレビ画面の中では、昨日起こったという殺人事件のことや、人気芸能人カップルの破局、梅の花の開花状況に至るまで様々な情報が目まぐるしく流れ、そのたびに表情をころころと百面相のように変えて原稿を読みあげるアナウンサーを、健司は半ば感心する思いでぼうっと眺めていた。

8時15分。少し早いがそろそろ川中接骨院へ行く準備をする。
ここの院長の川中は地域で有名な腕利きの整体師で、予約は受け付けないので少し早めに行って整理券をもらうのだ。
それでも一時間は待つが、並んでいる顔ぶれは皆ほとんどが顔見知りで退屈はしない。
健司が通い始めたのはつい最近だが、早くも腰の具合が良くなってきて効果を実感している。

コートを着てマフラーをして、まだ眠っているであろう雪子に小さな声で「行ってきます」を言った。

接骨院へ行く道の途中にある小さな公園を通りかかると、梅の木が白い花を咲かせていた。
梅は雪子の好きな花だ。毎年梅が咲き始めると、「春の匂いがする」と言って喜んでいたものだ。
隣町の「梅まつり」にも二人で何度か訪れたことがある。
健司は毎年この時期は花粉症のため、「春の匂い」どころではないのだが。

接骨院に着くともうすでに先客が何人かいた。
健司は顔見知りの工藤という男の横に座っていつものように世間話をしながら時間を潰した。

「それにしても、ここ、物がいつも散乱しているよなあ。」
健司はせまい院内を見回しながらそう言った。
そこかしこに院長の私物らしき荷物が置かれており、ごちゃごちゃとしているのだ。

「だよねえ。この前も客の誰かが院長に『少しは片付けたら?』なんて言ったら、『ここは俺の接骨院だから文句のあるやつはこなきゃあいい』なんて言ってがはがは笑っていたよ。」

「そんなんでよく商売が成り立つよなあ。」

「まあそれだけ腕がいいからねえ。」

「こんなの雪子が見たら我慢できずに片付けちまうだろうなあ。あいつはきれい好きだから。」

「…あはは。そうかもねえ。」

工藤が健司の言葉に苦笑いをしていると、「工藤さーん」とちょうど彼の名前が呼ばれ、「じゃあ、お先に」と言って施術室の中に入っていった。

10時半。施術が終わって院の外に出ると、さてどうしたものかと健司は考えた。
家に帰ってもまだ雪子は寝ているだろう。
院長の施術のおかげで腰の調子も良いことだし、駅の方まで足をのばして「このは」にでも寄って行こうか。
うん、それがいい。そこで早めの昼食もとってしまおう。

「このは」は健司いきつけの喫茶店の名だ。店のオーナーは健司の同級生で、今はその娘夫婦が店をまわしている。
ここのナポリタンは絶品で、ときどき無性に食べたくなる。以前は雪子と一緒によく訪れていた。
健司が「今日はナポリタンが食いたいなあ。」と言うと、雪子は「あんたも好きねぇ。」などと言ってニヤニヤしながら、「じゃあいきましょうか!」と言って健司よりも張り切って出かける準備をしていたものだ。

「喫茶このは」と書かれたガラス戸を開けると、「いらっしゃいませ!」という元気な声で迎えられた。
オーナーの娘である明美は、客が健司だと分かると、「あら、中原さんいらっしゃい!」と愛嬌のある笑顔で彼の名を呼んだ。

「久しぶり。ちょっとお昼には早いんだけどねえ、食べに来たよ。」
健司が挨拶をすると、どうぞどうぞとカウンターのいつもの席に案内される。

少ししてお目当てのナポリタンが目の前に運ばれてくると、その懐かしい匂いになんだか胸の中をぎゅっとつかまれる思いだった。

ここに、雪ちゃんがいればなあ。

皆の前では言わないが、健司は二人きりのとき雪子のことを「雪ちゃん」と呼んでいる。
出会ったころからずっとそうだ。
雪子はいくら歳を重ねても、たとえ手や顔にシワがたくさん出来ても、それでも「雪ちゃん」と呼ぶのがふさわしいような、そんな女性なのだ。少なくとも健司にとっては。

今度来るときは雪子も一緒に来れるだろうか。
そんなことを考えながらもしゃもしゃとナポリタンを食べていると、手が空いたらしい明美が健司の横にきて話しかけてきた。

「どうですか、久しぶりのナポリタンは?」

「相変わらずうまいねえ。お父さんは元気にしているかい。」

「ええ、もう元気元気。今日も仲間と山登りだとか言って出掛けていきましたよ。」

「そうかい。そういえば俺も前に誘われたなあ。腰がもう少し良くなれば行けるんだけど。」

「なんか家にいるのが退屈みたいで、すーぐ外に出てっちゃうんですよ。」

「わかるなあ。俺も最近は雪子がなかなか起きてこないんで、家に居てもやることがないんだよなあ。あいつも身体が少し辛いんだろうから、こちらの都合で起こすのも可哀想だしね。本当はこのナポリタンも、一緒に食べに来たかったんだけど。」
健司があははと笑いながら言うと、明美は少し暗い顔をして、「そうですよねえ」と応えた。

ナポリタンを食べ終えた健司がご馳走様を言って店を出ようとすると、明美が深刻な顔をして健司に言った。

「あの、中原さん、もし何か困ったことがあれば、何でも言ってくださいね。あの、うちも…母を亡くしてますし、その…なにかと大変でしょうから。」

「ありがとう。心配してくれて。何かあったら遠慮なく言うよ。」

健司がそう言っても明美の顔から心配の色は消えなかったが、最後には再び笑顔を見せて「またいつでも食べに来てくださいね」と言って見送ってくれた。

12時。今から帰ればちょうど雪子が起きる頃だ。帰ろう。

「ただいま。」
玄関から健司が声をかけると、静まり返った部屋の中から雪子の声が返ってきたので健司は嬉しくなった。

「川中さんのところに行ってきたよ。あと、久しぶりにこのはにも行ってきた。」

健司のその言葉に雪子は特に反応せず、ソファーの上でごろんとなっている。

「雪ちゃんの好きな梅の花も咲いていたよ。ほら、あそこのケーキ屋の隣の、小さな公園があるだろう。」

雪子がこちらを向いて返事をした。
やはり梅の花が好きなのだ。

「昔はよく、二人で梅まつりに行ったよなあ。なあ、雪ちゃん。このはの明美ちゃんが、雪ちゃんのことを心配していたよ。だいぶ長いこと、顔を見せていないもんなあ。なあ今度、顔を見せに行こうか。」

健司がそう言うと雪子はうふふと微笑みながら曖昧な返事をした。

「なあ、雪ちゃん。身体の具合が良くないのかい。俺たちも、もういい歳だもんなあ。最近は雪ちゃんが眠ってばかりいるもんで、俺は暇で暇でしょうがないんだ。なあ雪ちゃん。もう少し暖かくなったら、また一緒に出掛けたいなあ。」

健司がそう言うと雪子は再びうふふと微笑み、やはり曖昧な返事をした。

「梅はだめでも、桜が咲く頃にはまた二人で…なあ、雪ちゃん…」

健司は雪子の隣に座り、気持ちよさそうに伸びをする彼女の頭を撫ぜながら、窓から流れ込む暖かい日差しを浴びて少しの間目をつむった。

**

春の訪れを感じるような暖かい日差しを浴びて、健司と雪子は二人並んで歩いている。
見慣れた街の風景だが、そこを歩く二人の姿がだいぶ若く見えるのは夢の中だからだろうか。

道端に見慣れないダンボールが置かれている。
二人が中をのぞくと、中にはちいちゃな子猫が入っていた。

捨て猫だということがわかると、雪子はすぐにダンボールを持ち上げて、うちへ連れて帰ると言う。
言い出したら聞かない性格だ。健司には反対する理由もなく、すぐに猫を飼っている知人に電話をしてアドバイスをもらい、病院に連れて行ったり、ペットショップへ走ったりと奔走した。

「ねえ見て、この子のここの部分、梅の花みたいよ。」

子猫は全体的に茶色っぽい色をしていたが、背中の部分に白い模様がついていて、雪子にはそれが梅の花に見えると言う。

「じゃあ、ウメって呼ぼうか?この猫。」

健司の提案に雪子は「ひねりがないねぇ」と言ってころころと笑った。
そしてひとしきり笑ったあと、「うん、とてもいい名前。ね?ウメちゃん。」といって子猫の背中を撫ぜた。
優しい眼差しで子猫を見つめる雪子の横顔になんだか懐かしい気持ちを抱きながら、健司も子猫の背中を撫ぜて名前を呼んだ。

「雪ちゃん。」

言った瞬間に視界がぐにゃりとゆがむ。
遠くから雪子の声がする。

「違うわよ、雪子はわたし。その子は、ウメ。」

**

「雪ちゃん」

健司が伸ばした手は空を切った。

気づくと部屋の中がオレンジ色に染まっている。どうやら眠っているうちに夕方になってしまったようだ。
健司の膝の上ではウメが静かに寝息を立てていたが、雪子の姿はどこにもなかった。

どこかに出かけたのだろうか。近所のスーパー?それとも、ずっと遠く?
そうか、俺が昼間一人でこのはへ行ってしまったのが悔しくて、あいつもナポリタンを食いに行ったのだな。なあんだ、だったら無理にでも起こして、二人で行けばよかった。

夢と現実とがごちゃまぜになったまどろみの中で、とても大事なことを思い出すように、健司はもう一度、彼女の名を呼んだ。

雪ちゃん。

夕陽のオレンジが一層強くなり、健司とウメを優しく包み込んだ。
健司は雪子の好きな梅模様を探そうとして、夢の中で見たよりも随分と大きいウメの背中に手を置いたが、その前に視界が滲んでしまってもう全然だめだった。

 


【第5回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

参加しますにゃ

 

短歌よむよ〜


今月のお題 - はてな題詠「短歌の目」

 

詠みます。

 

☆☆☆

 

1.白

「おつかれさん。」グラス傾け乾杯を 白ひげつくるの ひとりぼっちで


2.チョコ

赤く火照った頬に手をあてキスをした チョコのお酒が効いてきたでしょ


3.雪

それいけと 雪のお山を登るのは 黄色いながぐつ 紅いほっぺた


4.あなた

「あなたこそ!」 売りことばに買いことば わたしはぜっっったい折れませんから


5.板

大きな一枚板のカウンターで腹いっぱいに寿司が食べたい 


6.瓜

『瓜 レシピ』インターネットで調べるよ 「ねえはやくして」「ちょっと待ってよ」 


7.外

窓の外 雨の音が聞こえるの 少し笑って 少し泣いて


8.夜

膝を折り 夜行バスに身を詰めて あたしのもとに朝(あした)は来るの


9.おでん

通学路 ミニスカートがひるがえる しろい息と セブンのおでん

 

10.卒業
酒飲んで「いつ振りだっけ?!」とハイテンション 卒業以来、変わらぬ笑顔

 

☆☆☆

 

禁酒中なのに3回も酒が出てきました。

すきなやつあったら引用スターくだつぁぁぁぁい

甘い誘惑 -第4回短編小説のつどい-

 

「お邪魔しまーす…」
一歩中に入った途端、そこはまるで別世界だった。

その家の中は、一度だけひやかしで入ったことのあるモデルルームのような匂いがしたし、綺麗に掃除された玄関の先には、真っ白な壁にかこまれた廊下が続いていた。
煙草のヤニで茶色く染まった壁ばかり毎日見ている璃子にとってはそれだけで驚きだった。

ぎこちなく靴を脱いでそこに並べると、泥で汚れたままのスニーカーを履いてきた自分が急に嫌になる。

「ママ〜、璃子ちゃんが来たよ〜!」
そう言いながら家の中に入って行く美香のあとについて廊下を進み、扉を開けた先のリビングへと案内される。
璃子はそこでいったん振り返り、廊下の床を確認した。
自分の足跡だけが黒く汚れて浮かび上がってしまったのではないかと不安になったのだ。
しかしさすがにそんなわけはなく、そこにはしっかりと磨かれた床がピカピカと光っているだけだった。

「璃子ちゃん、いらっしゃい。」
綺麗な洋服に身を包んだ美香の母親が優しい笑みで璃子に声をかける。

「お、お邪魔します。」
璃子はしきりに自分のスカートを指でくしゃくしゃといじりながらぺこぺこと挨拶をした。

「璃子ちゃん、ここ座っていいよ!」
美香が無邪気な笑顔でこれまた真っ白なソファに璃子を誘導する。
璃子は素直にそこに腰掛けるものの、なんだかお尻がむずむずとして落ち着かず、相変わらず自分のスカートをいじりながらきょろきょろと部屋の中を見回した。
白を基調とした室内に、目の前にはガラス製のローテーブルが置かれている。
ふと先ほど鼻水を拭いてしまった自分の洋服の袖が目に入り、とても恥ずかしい気持ちになった。

「オレンジジュースとカルピス、どっちがいいかしら?」
美香の母親がそう言うと、美香は即座に「カルピス!」と元気な声で答える。
「璃子ちゃんは?」と聞かれたので璃子も「じゃ、じゃあわたしもカルピスで!」と答えた。

少しするとグラスに注がれたカルピスが二つと、白い皿にたっぷりと盛られた色とりどりのお菓子が運ばれてきた。
璃子の家では一度もお目にかかったことのないキラキラとした紙に包まれたそのお菓子たちは、まるで宝石のようだった。

「わあい、いただきます!」
美香がその宝石に手を伸ばして紙をむくと、中からチョコレートが出てきた。
そして彼女はそれを珍しがる様子もなくぽんと口に放り投げた。

「璃子ちゃんも、遠慮なく食べてね。」
美香の母親にそう促された璃子は、すぐにでもその宝石たちにがっつきたい気持ちだったけれど、まずは目の前に置かれたカルピスに手を伸ばしちょぴりと一口飲んだ。
甘酸っぱい爽やかな味が口に広がり、思わずそのままグラスを空にしてしまいたい衝動に駆られたけれど、そこはぐっと我慢して、グラスをテーブルへと戻す。
そして遠慮がちに宝石へと手を伸ばした。
キラキラとした紙をむくと、やはり中にはチョコレートが入っていて、璃子はそれをゆっくりと口の中に入れ、噛まずに舌でなめた。
しばらくなめると中からアーモンドが出てきたので、璃子は心の中でガッツポーズをした。

「あ、そーだそーだ。」
美香が口にチョコを入れたまま立ち上がり、ちょっと待っててねと言って廊下の奥の部屋へと消えていった。
ほどなくして戻ってきた彼女の手には、たくさんの消しゴムが抱えられていた。

そう、これこそが今日、璃子が美香の家に招かれることになった理由なのである。

そもそも、璃子と美香はこうして互いの家を行き来するほどの仲良しではない。
あくまで同じクラスの女子、という程度の仲だ。

二人のクラスでは今、女子の間で“消しゴム交換”というのが流行っている。
消しゴムといっても鉛筆で書いた字を消すためのものではない。
動物だとか果物だとかの可愛らしい形の消しゴムをコレクションとして集めるのだ。
そしてそれを互いに見せ合ったり、交換したりして遊ぶのだ。

璃子も例外ではなく、親にねだり倒して買ってもらった数少ないコレクションを大切にしていた。

今日の休み時間も女子数人が集まり、皆自分のコレクションを見せ合ったりして遊んでいた。
中でも一番たくさんのコレクションを持っている美香は、可愛くて明るくて、璃子にとってはひそかに憧れの存在だったのだけれど、いつも輪の中心にいる彼女にこちらから話しかけることはあまりなかった。
しかし美香の方はというと、グループの違う璃子にも「璃子ちゃん、璃子ちゃん」と言って親しげに話しかけることがよくあった。

そのときも、「ねえねえ璃子ちゃん、わたしと消しゴム交換しよ!」と美香は気軽に話しかけてきた。
璃子は自分の頰が赤くなるのを感じながら、「うん、いいよ!」と応じた。

その話の流れのまま、璃子は放課後、美香の家で消しゴムを持ちよって交換会をすることになった。
本当は他の女子たちも誘ってということだったのだけれど、たまたま皆都合が合わず、璃子だけが美香の家に行くことになったのだ。

美香が両手いっぱいに持ってきた色とりどりの消しゴムは、相当な数があった。
璃子も自分のポケットからいくつか消しゴムを取り出すと、「全部持ってくるのは大変だったから、今日はこれだけ。」と小さな嘘をついた。
本当は今手元にあるもので全部なのに。

美香は消しゴムを丁寧に並べると、端から順に「これはねー」と言いながらひとつひとつ説明を始めた。
ピンクのうさぎの形をした消しゴムを手に取ると、「このうさぎちゃんはね、わたしの一番のお気に入りなの。だからこれだけは交換できないんだ〜!」と言って他のものと混ざらないようにテーブルの隅に置いた。

「璃子ちゃんのも見せてー!」
美香が璃子の手元を覗き込むようにしてきたので、璃子も美香の真似をして消しゴムを丁寧に並べ、ひとつひとつ説明をした。

「このペンギンさんのはね、」

「わ〜!このペンギンさん、可愛い〜!」

美香が声をあげる。

「ねえねえ璃子ちゃん、このペンギンさん、わたしのと交換しない?」

「えっ?い、いいよ!」

反射的に言葉を返してしまったけれど、本当は全然よくなかった。
このペンギンの形をした消しゴムは璃子の一番のお気に入りで、これだけは人と交換するつもりはなかったのだ。

「やった〜!じゃあ、ここから好きなの選んでいいよ!どれがいい〜?」

どうしようどうしようと思いながらも、きらきらと目を輝かせる美香の前で璃子はもう後には引けなかった。

「えっとね、これにする。」

璃子は美香の前に並んだ消しゴムの中から、猿がバナナを持ってひょうきんな顔をしているのを手に取った。

「え〜それがいいの!?璃子ちゃん、面白いね!」

あははと笑う美香に、璃子もあははと笑顔を返した。

交換は成立。
ペンギンの消しゴムがなくなるのは寂しいけれど、璃子はこれでいいと思った。
こうして美香と消しゴム交換ができていることの方が大事に思えたのだ。

そのあとも消しゴムを使ってごっこ遊びなどをしていると、時間はあっという間に過ぎた。
「璃子ちゃん、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」という美香の母親の一言で、会はお開きとなった。

「じゃあちょっと、消しゴムを片づけてくるね!」
美香がそう言って消しゴムを抱え、奥の部屋に入っていったので、璃子も自分の分をポケットにしまって帰る準備をした。

「璃子ちゃん、良かったらこのお菓子、少し持って帰らない?」
美香の母親が璃子に声をかける。
璃子が遠慮してあまり手をつけなかったので、皿の上にはまだたくさんお菓子が残っていたのだ。

「えっと、じゃあ、ちょっともらいます。」
そう言って宝石のようなチョコレートたちを消しゴムとは反対側のポケットに入れた。

ふとテーブルの隅っこに目をやると、美香が一番大事にしているはずの、ピンクのうさぎの消しゴムがぽつんと置き去りにされているのが見えた。

「璃子ちゃんバイバイ!また来てね!」
ニコニコと笑いながら手を振る美香に璃子も手を振り返し、くるりと背を向けて家へと歩き出した。

背後でカチャンとドアの閉まる音が聞こえるのと同時に、璃子は全速力で走り出した。
足がもつれて何度も転びそうになったけれど、それでも息の続く限りに走った。
そしていいかげんもうだめだと思ったところでやっと立ち止まり、はあはあと荒くなった息を整えた。
自分の足がわずかに震えていることに気づく。

璃子は自分のポケットに手を入れて中を探った。
先ほどもらったお菓子たちがシャカシャカと音を立てる。

胸が、どきどきする。
どうして自分がこんなことをしてしまったのか、璃子には全くわからなかった。

だけど、“それ”は、確かにそこにあった。

シャカシャカした感触のお菓子に混じって、表面がサラサラと粉っぽいゴムの感触が見つかり、璃子はそれをポケットから取り出した。
美香が一番のお気に入りだと言って見せてくれたときにはキラキラと輝いて見えたピンク色のそれは、璃子の手に握られた今では、その輝きをすっかりなくしてしまっていた。

璃子はそれをもう一度ポケットに戻すと、ぶるりと大きく身震いした。
いつの間にか日はとっぷりと暮れ、璃子の小さな身体は真っ暗な空に飲み込まれてしまう。

たまらずしゃがみこんだ璃子はその小さな胸の中で、大好きな美香の笑顔と、甘い甘いお菓子の味を、繰り返し繰り返し思い出していた。

 


【第4回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

参加します!

最近書いてる創作のやつのこと。

「こういうことがあってわたしはこう思いました。」みたいなこと書くのが苦手だなーって思うんですよ。

 
書くことに限らず、「あなたはこれどう思う?」って人に聞かれたときにもまあ何も答えられない。
自分の考えを言語化することが苦手なんですね。
それでも特別な不便は感じずに生きてきたんですけどねそれなりに。
 
はてなブログをやってると「俺はこう思う」「いや私はこうやねん」て言及言及していくスタイルの記事が毎日飛び交ってていやーすごいなーって思って遠まきに見たりしながらも、自分はそういうとことは全然関係ない場所でぽちぽちブログ更新してのほほんとやっていけばいいやって思ってるんですけど、たまーにムラムラーっとしてしまうときがあって、「あーこれ言いたいわー言いたいことあるわー」って感じるんですけど、いざそれについて書こうと思うと何も書けないんですよね。
いや違う、言いたいことはこれじゃーない、と書いて消して書いて消してを繰り返してそのうちに諦めてしまう。あと炎上こわい。
そんなことがあると、自分の言いたいことも書けないなんて〜ポイズン!とか思いながらツイッタに愚痴こぼしたりしてるんですけど。
 
でも最近はその自分の中にあるムラムラを解消するいい方法が見つかったんですよ。
それがこのブログを開設したきっかけでもある短編小説書いてみよう!っつー企画なんですね。
 
最初はなんとなく「書いてみたい!」っていう興味だけでテキストエディタ開いてぽちぽち書いてまして、もちろん小説など書いたことないんで書き方も全くわからないし、そもそも小説自体もそんなに読む習慣ないんですけど、まあ出てくる出てくる、文字が!出てくる!
普段ムラムラしたとき書けないのが嘘みたいに。
 
まずお題に対するキーワードがパパッと浮かぶんで、じゃあそれに沿って書いてこうねーって思うと頭にいろんな場面が流れてくるんでそれを文字におこす感じなんですけども。
三人称が推奨されてるんでその通りに書いてるんですけど、カチャカチャ書いてって出来上がったの見ると、そこにはいつの間にか自分の分身が出来上がってる。
 
もちろん創作なんで登場する人たちはわたしとは全く別人なんですけど、わたしの頭の中にあるぐちゃぐちゃんなってるパズルのピースをそれっぽい形にして出来上がった人やモノたちなんで、なんかすごい自分の分身感ある。
 
そんで何がすごいかっていうと、書き上げたときのデトックス感がちょーやばいんですよ。
 
わたしは読み手を意識して書くみたいな段階には全然達してないんで他人が見たらなんのこっちゃな文章かもしれないんですけど、自分にとっては「おー君たちそんなとこに居たのか、久しぶり〜元気〜?」みたいな感じで、今まで自分が体験したことや感じたこと、人から聞いたこと、テレビや本から得た情報まで、それらはちゃんとした形になってなくて頭の中をふにゃんふにゃんと漂ってただけなんですけど、そいつらが文字になって出てきてくれた感じで。
 
そんで中には、やだやだ〜こんなやつ表に出したくないわ〜っていうようなドロっとした質感のやつとかも一緒に流れ出てきちゃうんですけど、まーいいや創作だしっつって軽くお洋服着せてあげて、よーしお前も行ってこい!つってドーンと送り出せてしまうんですよ。
 
だから書き上げたときの爽快感がヤヴァイんだね。
 
怒りとか悲しみとか汚いやつとか恥ずかしいやつとかそういうやつでも、そこにあるって認めた時点で少し軽くなるみたいなとこあると思うんですけど、たぶんその作業が書いてるあいだとか、書き上げて読み返すときとかにできちゃうんじゃないでしょーか。
 
そんで書いてて思ったんですけどたぶんわたし「自分の考えを書こう!」と思った時点で白か黒かの結論を出そう出そうとして、結果として自分の中に白も黒も存在しないことに混乱して「???」ってなっちゃってたんですよね。
 
だから自分は何も考えがない人間なんや〜なんて適当に生きてきたんだろ〜とか思ってたんですけど、実際はそうじゃなくって、白でも黒でもない、なんと表現したらいいかわからない色した輩が実はたくさん頭の中を漂っていたんだねって気づきました。
 
過去(といってもわりと最近)にこのブログに書いてきたやつらは今となっては恥ずかしくてぜってー読み返したくねー!ってやつがほとんどで、そしてそれはこれからも増え続けていくと思うんですけども、今なんかすごい「書くの楽しいね!」ってワーイワーイしてるんで今んところそれでいいやって思います。みたいなこと考えてたら電車乗り過ごしました。情熱!

ハッピーニュー禁酒イヤー!

あけましておめれろうごらいます。

 
いきなりろれつ回ってねーじゃねーかって話なんですよね、実際。
もー酒やめようよって思うんですよ。
 
最近は飲むと必ず記憶なくしてしまうし二日酔いとかもひどいんだからね。
 

 
はい買いました。
 
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禁酒セラピー [セラピーシリーズ] (LONGSELLER MOOK FOR PLEASURE R)

禁酒セラピー [セラピーシリーズ] (LONGSELLER MOOK FOR PLEASURE R)

 

 

 

 

 
まだ少ししか読んでないんですけどこの辺とか気に入りました。
 
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“心を開いて!”
 
わたし捻くれ者のすっとこどっこいなんでモノや人に心を開くのはけっこう苦手な方なんですけどわりと急にガバッと開いちゃうときもあるんだよ。
 
おやすみなさい。
 

クリスマスはチョコレートケーキで。 ー【第3回】短編小説の集い ー

真っ黒な12月の空から冷たい雨がしとしとと降り出した。

恭介はポケットに手をつっこみ、顔をコートの襟に埋めながら、「うーさみい。」と白い息を吐いて呻いた。

頭の中には先ほど訪れた飲み屋で流れていたクリスマスソングがぐるぐると回っている。
男性客ばかりが集まるあんなくたびれた場所でクリスマスソングを流す意味もよく分からなかったが、こんな日に雨の中一人きりでプラプラと歩く今の自分には、あの悲しげな曲がピッタリと当てはまるような気がして、半分自虐的な気持ちでその曲を口ずさんだ。
この雨ももうじき雪に変わるのだろうか。

「いい歌ですよねぇ。」

突然後ろから声がしたので振り返ってみると、そこには4足歩行の角の生えた動物が恭介の後を追うようにして歩いていた。

恭介はギョッとして立ち止まったが、そんなことはお構いなしといった様子でそれは喋り続ける。

「この雨も雪に変わるんですかねぇ。」

果たしてこれはどういうことだろうか。
恭介の目の前にいるこの動物は確かにしゃべっている。周囲を見渡しても他に人はいない。こんなことがあるだろうか。
確かに酒は飲んだが、仕事帰りに同僚とビールを一杯ひっかけただけで、こんな幻覚を見るほど酔ってはいないはずだった。

恭介は恐る恐るそれに話しかけた。

「なんだお前。」

するとそれは馬鹿を見るような目つきで答えた。

「えぇ?僕ですかぁ?見ての通り、僕はトナカイですよぉ。知らないんですかぁ?ト・ナ・カ・イ。」

「いや、そうじゃなくて。」

「今日ってそういう日じゃないですかぁ。」

「だからそうじゃなくって。」

「あぁ。なんで仕事もせずにこんなところにいるのかって?それ聞いちゃいますぅ?実はねぇ、迷子になっちゃったんですよぉ。」

やはり俺は酔っているようだと恭介は思った。
そう思うしかなかった。

「ねぇ?人の話聞いてますぅ?僕ね、迷子なんですよぉ。かわいそうでしょう?」

恭介は喋り続けるトナカイを無視して家路を急ぐことにした。
もしかしたら熱でもあるのかもしれない。

するとトナカイも早足になって恭介のあとをついてきた。

「ねぇねぇ?聞いてますぅ?ねぇったらぁ!」

恭介はトナカイを振り切るように走り出したが、それでも彼の後ろにピッタリとくっつきながらそれは喋りかけてくる。
こいつが本当にトナカイだとしたら、人間である恭介が足で勝てるはずがなかった。

「ねぇねぇ?ねぇ?」

「…なんだよっ!」

あまりのしつこさに恭介は息を切らしながらもう一度振り返って言葉を投げた。
するとトナカイは待ってましたと言わんばかりに赤い鼻をピカピカとさせて喋り続けた。

「僕ねぇ、サンタと喧嘩しちゃったんですよぉ。」

「…ああそう。」

「それでねぇ、『もういいっ!知らないっ!』つって走り出したらね、サンタのやつ追いかけて来ないんですよぉ。信じられますぅ?」

トナカイの言い分はよく分からなかったが、どうやら恭介にはこいつの話を聞くという選択肢以外用意されていないようだった。

それに、このトナカイはもしかしたら今の自分と同じなのかもしれないと少しだけ思った。

「追いかけて来ないんじゃぁ、僕もおめおめと帰れないじゃないですかぁ?それで走り続けてたらね、いつの間にかどこにいるか分からなくなっちゃってぇ…。」

「お前アホだな。」

「なっ!アホだなんて!心外!心外ですぅ!」

「なんで。」

「えっ?」

「なんで喧嘩したんだよ。」

「えぇ?聞いちゃいますぅ?喧嘩の理由ぅ。」

「言いたいんだろ。言えよ、聞くから。」

トナカイの鼻がいっそう強く光った。
どうやら気分が乗ってくると鼻が光るらしい。

「ひどいんですよぉ、うちのサンタのやつ。僕の鼻ね、赤いでしょ?みんなと違って赤いんですよぉ、それが自分でもコンプレックスでね?なのにねぇ、お前の鼻はピッカピカ〜ピッカピカ〜とか言ってくるんですよぉ?ひどいでしょ?ねぇ?」

それだけ聞くと確かにひどいような気もするが、サンタが言いたいのはたぶんそういうことではないのだろうと察しがついたので、恭介はトナカイに「もう少し人の話をよく聞いてみるといい」というアドバイスだけすると、彼は不服そうな顔でぶうぶう言いながら話を続けた。

「ところであなた、一人なんですねぇ?今日何の日か知ってます?一緒に過ごす人、いないんですねぇ。」

「うるせえな、いるよ!…いや、いないか。」

恭介は真里の怒った顔を思い出しながら、下を向いた。

「俺も喧嘩したんだ。」

するとトナカイは鼻をピカピカさせながら「えぇ?あなたもですか!」と言う。
仲間を見つけて嬉しくなったようだ。

「喧嘩なんてねぇ、きっかけは些細なことなんですよねぇ。なのにねぇ、言い合ってるうちにお互いなかなか引けなくなってねぇ…。はぁ。」

トナカイは空を見上げながらひとりごとのようにつぶやいた。
どこにいるかも分からないサンタの姿を探すように。

恭介は、チョコレートケーキをホールで食べたいとはしゃぐ真里の姿を思い浮かべた。
二人でクリスマスの予定を立てていたはずなのに、どこでどう間違ったのか、いつの間にか喧嘩に発展してしまいそれっきり今日まで連絡をとらなかった。

「気が強いんだよあいつは。」

「デリカシーがないんですよぉサンタは。」

二人で肩を落としながらとぼとぼと歩く。
すると道沿いにあったケーキ屋の前でトナカイが大声をあげた。

「ねぇねぇ!」

「なんだよ。」

「ケーキ屋さんがありますよぉ、ケーキ屋さん!」

「だからなんだよ。」

「買って帰りましょうよぉ、ケーキぃ。」

「やだよ。絶対やだ。」

「いいじゃないですかぁ!今日は特別な日なんだしぃ。ね?ね?」

「つーか買って帰りましょうってお前まさか家までついてくる気かよ。」

頭を抱える恭介の言葉を無視してトナカイはピカピカとやかましく光る鼻先でぐいぐいと彼の背中を押しやった。

「ほらほらぁ、ドア開けてくださいよぉ。」

ピッカピカとうるさい鼻が言う。

「わーかったよ!わかった、入るよ!」

トナカイのあまりのしつこさに、もうどうにでもなれとやけくそになりながら恭介は店のドアを開けた。

カランコロン、という音とともに店内に入ると、赤いサンタ帽をかぶった女性店員が「いらっしゃいませ〜」と愛想のいい声をかけてくる。
その店員はこちらを見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに接客用の笑顔に戻った。

「えっと…」

もうほとんど売り切れた様子のショーケースを前に、恭介があたふたしながら助けを求めるように横を見ると、そこにはもうトナカイは居なかった。

すると急に心細くなり、もしかして迷子なのは自分の方だったのではないだろうかという気がしてきた。

相変わらず貼りつけたような笑顔でこちらを見つめる店員を前に少したじろいだが、もう後には引けなかった。
言うべきことは決まっている。

「チョ、チョコレートケーキ。」

少し変な声が出た。
ううん、と咳払いをしたあとに付け加える。

「ホールで。」

すると笑顔だったはずの店員の顔がくしゃりとゆがみ、次の瞬間にはサンタ帽が恭介の顔めがけて飛んできた。

思わず一瞬ひるんだが、それでもめげなかった。

「悪かったよ。一緒に食べよう。」

サンタ帽のなくなった真里にぺこんと頭を下げると、彼女はくしゃくしゃの顔のまま何度もうんうんと頷いた。



『メリークリスマスですぅ』

あのうざったい声が遠くの空から聞こえた…ような気がした。
 
 
 


【第3回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

参加しますぅ