短編小説の集い
「ねえ、人って死んだらどうなるの?」 おやつに出されたいちご大福をうまいうまいと頬張りつつも、リサは最近ずっと気になっていたことを口にした。 「どうなるって?うーん…」 その問いがあまりにも唐突だったので、彼女と一緒にいちご大福を頬張っていた…
「ほんで、4月からどうすんの。」 「どうすんのって、何が。」 黒い空にぽっかりと浮かぶ白い月に向かって、アカリはふうと煙を吹きかけた。 「何がって、働いたりしないの。」 「働いてるじゃん。」 手に持った缶ビールを傾けてグビリとひとくち飲む。ヤニ…
7時。健司のいつもの起床時間だ。もう何年も前から目覚まし時計がなくてもほとんどぴったりこの時間に起きるようになっている。腰に負担がかからないよう、横を向いて手をつきながらゆっくりと起き上がると、隣で寝ている雪子を起こさぬようそろりと布団から…
「お邪魔しまーす…」一歩中に入った途端、そこはまるで別世界だった。 その家の中は、一度だけひやかしで入ったことのあるモデルルームのような匂いがしたし、綺麗に掃除された玄関の先には、真っ白な壁にかこまれた廊下が続いていた。煙草のヤニで茶色く染…
真っ黒な12月の空から冷たい雨がしとしとと降り出した。恭介はポケットに手をつっこみ、顔をコートの襟に埋めながら、「うーさみい。」と白い息を吐いて呻いた。頭の中には先ほど訪れた飲み屋で流れていたクリスマスソングがぐるぐると回っている。男性客ば…
星になったはずの父が帰ってきたのは、英恵が中学二年生のときだった。 「どうも、あなたの父です。」 屈託のない笑顔で自己紹介をしたその男は、どうやらこの家に居座ろうとしているらしかった。 英恵の母も、突然訪ねてきたその男に最初こそ戸惑っていたも…
5 「ああ、そうだ。リンゴ、リンゴがあるのよ。直、持って行かない?」母はそう言って冷蔵庫にぱたぱたと駆けていき、扉を開けると早くもいくつかのリンゴを取り出して袋に詰めはじめている。「まだいるって言ってないじゃん。」直子は母に聞こえぬよう小声…